Yokohama Citizen's Radioactivity Measuring Station


天然核種についての雑談


横浜市民測定所では偏らない測定への理解と分析知識を養うために測定員さん向けに不定期で勉強会を開いております。本稿は、その時に、測定員さんからいただいた質問をベースに起こしたものです。
少しでもなにかの参考になれば、幸いです。- 2014年1月24日追記:青木康雄



2014年1月21日

青木 康雄

はじめに

今回は、地球上に広く存在する、天然の放射性物質についてのお話をしてみたいと思います。
天然の放射性物質は、単に「天然核種」と呼ばれたりもしますが、地球誕生の時から地殻中にある「原始放射性核種」が主なものです。
他にも、宇宙から降り注ぐ宇宙線によって大気中で生成され続けている「宇宙線生成放射性核種」等があります。
「原始放射性核種」は地球誕生のときから今まで存在していることからもわかるように、半減期が非常に長く、地域差はありますが土壌等には豊富に含まれます。農作物や果実等にも移行し、測定業務を行っておりますと、よく目にするごくありふれたものです。
横浜市民測定所でも、食品の放射能測定をしているとたびたびこれら天然核種に遭遇します。
横浜市民測定所で使っている測定器は、シンチレーション検出器というものを使ったものですが、この検出器は感度は高いものの、核種を判別する能力はゲルマニウム検出器に比べると劣ります。そのため、天然核種が存在すると、放射性ヨウ素(131I)や放射性セシウム(134Cs、137Cs)と言った人工の核種と誤認されてしまいます。
測定結果は全てスペクトルを分析した上で所見を付けておりますので、例えばあるはずのない131Iが検出されたときには、131Iは天然核種である214Pbの誤認の可能性が高いです・・・という所見が付くのですが、では、天然核種である214Pbは、食べても大丈夫なの? という疑問が生じますね。ガンマ線として見れば、どちらも同じものです。
大丈夫か大丈夫でないのかは、残念ながら判断できないのですが、以下、天然核種の影響について少し考えてみたいと思います。
ここでは131Iと誤認されることの多い天然核種である214Pb(天然ウランの崩壊で生成される核種です)について、考えてみます。

214Pbの金属鉛としての毒性の考察

鉛と聞くと、放射能以前にそれ自体の毒性が気になります。
ベクレルモニタで検出される Bq/Kg というのは、その物質の質量に換算すると具体的にどのぐらいか、計算してみましょう。

水道水中に含まれる鉛の規制値が、1リットルあたり0.01 mgです。これを、0.01 ppmと表記しますが、仮に、214Pbが0.01 ppmあったら、それは何ベクレルに相当するかを計算してみますと(計算過程は省略します):

12,038,000,000,000 Bq/Kg = 12兆 Bq/Kg

となります。すさまじい量ですよね。食品の放射能測定で検出される214Pbは、多くてもせいぜい数十Bq/Kg程度です。仮に、1200 Bq/Kg あったとしても、その濃度は 0.000000000001 ppm にすぎず、食品に含まれる程度の214Pbであれば、鉛としての毒性は考慮しないでよいと言うことができます。

214Pbの出す放射線は大丈夫なの?

大丈夫か大丈夫でないかは判断できませんが、131Iと比べて、以下のことが言えます。

  • エネルギーレベルはほとんど変わらないので、放射線(ガンマ線)としての影響は、131Iも214Pbもほぼ同じ。

すなわち、外部被曝としての影響は、214Pbも131Iも同じであると考えられます。しかしながら、食品に含まれる程度の214Pbの外部被曝が問題となることはまずあり得ませんので、これらを食べたときに生じる内部被曝について考えてみます。

  • 消化管からの吸収率の違い

ヨウ素は人間の生命活動に必要なものなので、食べるとほぼ全部、一旦体内に吸収されます。それに比して鉛は、人体の生命活動に必要ではないので、食べた鉛のうち体内に吸収されるものは成人で10%ぐらいです。すなわち、90%は、そのまま胃と腸をスルーして出て行ってしまいます。同じベクレル食べても、体内に吸収される量は大きく異なります。
さらに、ヨウ素は甲状腺に選択的に集まり、体内に吸収されたヨウ素の70%以上は甲状腺に蓄積されます。また、半減期も大きくことなり、131Iの半減期が約8日間に対して、214Pbの半減期は27分弱です。すなわち、体内に吸収された214Pbは、3時間も経てば百分の一の量になってしまいます。
特定部位(甲状腺周辺)に着目して考えますと、同じベクレル食べても被曝量としては相当の差があると考えられ、その影響は214Pbのほうが遥かに少なさそうです。

とはいえもちろん、214Pbだって放射線を出していることに変わりはありませんから食べないほうがよいのでしょうが、地球上に生命が誕生することができたのが、地球が誕生してしばらく経ち、短寿命の天然核種が消滅し、さらに地球上の放射性物質が減少してから(もちろんこれ以外にも、大気や温度、海の存在、太陽光の届き方等々いろいろあるのですが)であることを考えてみても、天然の核種については折り合いがつく程度には順応しているのではないかと考えることは、可能かと思います。

ポイントは、「放射線としての影響は、131Iも214Pbもほぼ同じ」「しかし、物質としての体内挙動と半減期が大きく異なるので、食べたときのダメージは相当違いがある」という点でしょうか。

これは、214Biや、40K についても同じことが言えます。
ビスマスについては無機塩類はほとんど水に溶けず、食べても人体にはほとんど吸収されない(数%)と考えられます。半減期も20分弱と、214Pbより短いです。
カリウムについては生きるに必要な元素なので吸収率は高いですが、全身にくまなく分布する(特定部位濃縮が無い)のと、放射線のエネルギーが高く、131Iや137Csよりも透過力が高いので人体で減速しにくい(=放射線の影響が出にくい)と言えます。

生命とは、なかなかうまいことできているものです。

最後に余談ですが、私もこの手の質問をよく受けます。メールだと相手の表情というか、こちらの空気感を伝えられないのでなかなか難しいのですが、直接会って話すときなどは、「天然核種はぶっちゃけ人類誕生のころから地球上にあるものなので、地球人である限りは気にしても仕方ないんじゃないですかね~」なんて、かなりゆるいことを言ってしまいます ^^)

 

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