※ 本資料は、当測定所分析スタッフの青木氏が個人のFacebookに投稿したものです。 随時更新されますのでたまにご覧ください。
半減期について考えてみる。
〜その1:かにさんルーレット〜
2012年6月13日
2013年5月20日一部修正
青木 康雄
よく聞く「半減期」という言葉。わかっているようでいて、よくよく考えてみると結構ややこしい概念です。
「30年経って半分の数になるセシウム137は、なんで60年経っても1/4にしかならないの?」
「セシウム137が全部無くなるまで、何年かかるの?」
良く耳にする疑問です。
「半減期」を正しく理解するためには確率の知識がどうしても必要になり、ポアソン分布とか聞いたこともないような言葉が出てきて、酒でも飲まねばやってられなくなってしまいます ^^)
今回は、前回の「ベクレルとシーベルト」に続きこの「半減期」について、相変わらず超乱暴ですが、難しい用語を一切使わず説明を試みてみます。
なるべく簡潔に説明しようとがんばってみたのですが、どうしても少し長くならざるを得ませんでした。でも、これを読めば、あなたはもう「半減期」について、胸を張って説明できるようになるでしょう。
少しお時間あるときに(10分間ぐらいかな?)、じっくり読んでみてください。
水槽の中に、捕まってしまったカニが 100匹 居たとします。このカニ全員に、1から10まで、10個の番号が振ってあるルーレットを渡します。人生ゲームについているルーレットと同じようなものです。
このルーレットはインチキなルーレットではなく、一度まわしたら、1から10までの、それぞれの数字が出る確率は、だいたい10%だとします。
さてここからが本題です。
毎日1回、水槽に捕らえられたカニたちに、釈放のチャンスが与えられます。毎日1回、全員「いっせいのせ」でルーレットを回し、1が出たカニに限り、水槽の外に出してもらえるのです。
みな、1が出るのを楽しみにしています。
1日目、100匹のカニがルーレットを回して、1が出たカニはどのぐらい居るでしょうか? たぶん、10匹ぐらいかな~ って感じですよね。まぁ、場合によっては、9匹かもしれませんし11匹かもしれませんが、だいたい、10匹ぐらいになるハズです(1が出る確率は10%なので)。
ここで10匹のカニが釈放され、捕らわれのカニは90匹になりました。
2日目、90匹のカニがルーレットを回して、1が出たカニはどのぐらい居るでしょうか? たぶん、9匹ぐらいかな~ って感じですよね。
ここで9匹のカニが釈放され、捕らわれのカニは81匹になりました。
3日目、81匹のカニがルーレットを回して、1が出たカニはどのぐらい居るでしょうか? たぶん、8匹ぐらいかな~ って感じですよね。
ここで8匹のカニが釈放され、捕らわれのカニは73匹になりました。
これをどんどん続けていくと、捕らわれのカニは7日目には53匹、8日目で47匹になります。だいたい8日弱で、元居た100匹の半分になりました。
この8日弱が、半減期です。
今回の例で出した水槽の中に居るカニは、放射性物質に相当し、毎日1回ルーレット回して釈放されたカニは、崩壊して放射線を出し、安定な物質に変わった元・放射性物質に相当します。今回はわかりやすいように時間単位を「日」にしましたが、これを、1秒間に1回ルーレットを回すようにすれば、釈放されたカニの数は、そのまんまベクレルに相当します(その場合、このカニの半減期は8秒弱ということになります)。
放射性物質が崩壊して放射線を出すまでの期間は、確率のみに依存するんですね。「はぁ?」って感じですが、例えば、半減期30年のCs-137を例にとれば、2コあるCs-137のうち、1コが崩壊する確率は、30年に1回ってことなんです。Cs-137が古いとか、新しいとかは関係ありません。例えば、30年前に生成されたCs-137でも、たった今、原子炉の中で生成されたCs-137でも、崩壊する確率は同じなんです。古いほうが先に崩壊するということは、ありません。
そしてさらに、一定の個数、もしくは比率できっちり規則正しく崩壊しているわけではなく、上記ルーレットを持ったカニと全く同じで、放射性物質は、その物質固有が持つ確率でのみ、崩壊が起きるのです。
この崩壊が起きる確率を示すものが、「壊変定数」と呼ばれるものです。その放射性物質が、どの程度の確率で崩壊するのかを示す定数です。
例えば、放射性ヨウ素I-131は半減期約8日で、今回例示したカニとほぼ同じ比率で崩壊していきます。I-131は1日あたり8%程度減衰していくので、今回と同じルールで釈放(=崩壊)するとした場合、100/8 = 12.5になりますので、ざくっと12とした場合、ルーレットには、1から12まで、12個の数字が書いてあることになります。
では、Cs-137はどうか。Cs-137は1日あたり0.00629%程度減衰していくので、100 / 0.00629 = 15898.2になりますので、ルーレットには、1から15898まで、15898個の数字が書いてあることになります。
これが、毎日毎日1回して、30年後に50匹(=半分)のカニが釈放されるルーレットです。
自分が釈放される番は、めったに巡ってこないことがすぐにわかります。
こんなルーレットを渡されたカニたちは、絶望のドン底でしょう・・・
さてここから少しややこしい話をします。
では、上記の例で、カニが全員出られるのは、いつなのか・・・考えてみてください。すなわちこれは、放射性物質は、一体いつになったら、ゼロになるのか? ということと同じ意味ですね。
実はこれ、やってみないとわからないのです。事前に計算できないんですね。ここが、確率論のややこしいところです。
ルーレットで1が出る確率に比べて、カニのほうがたくさん居るときは、概ね確率通りに釈放されます。
しかし、カニがどんどん減ってきて、最後の1匹になったときを考えてみます。
このカニは、ツキというものから完全に見放された人生を送っているカニで、事実、今まで一度もルーレットで1が出ず、最後まで残ってしまっているのです。
このカニが、次の日、ルーレットを回して果たして1が出るでしょうか?
それはやってみないとわからないですよね。ひょっとするといきなり出るかもしれないし、10回まわしても1は出ないかもしれない。
この現象は放射性物質の崩壊についても全く同様に当てはめることができます。
時間経過と共に崩壊が進むにつれ、放射性物質の数は減っていきます。数が減れば減るほど、確率により発生するイベント頻度の均一性が失われていきます。
すなわち、その放射性物質が持つ寿命・・・放射能が完全にゼロになるまでの期間というのは、あらかじめ計算できないし、仮に測定できたとしても、同じ放射性物質でも同じ期間にならないのです(確率によるゆらぎが入ってしまう)。
よって、「半減期」という、全体の半分になるまでの期間でその放射性物質が放射線を出す「時間的能力」を示すわけです。
目の前に半減期30年のCs-137原子が1個あったとします。このCs-137原子が崩壊して放射線を出すのは、いつだかわからないのです。いますぐかもしれませんし、30年後かもしれませんし、100年後かもしれないのです。
でも、目の前に半減期30年のCs-137原子が1億個ぐらいあったなら、30年後には5千万個ぐらいになっているだろうという話なんですね。
ちなみに、1億個のCs-137原子は、0.07ベクレルぐらいに相当します。あなたの机の上にも、ひょっとしてこのぐらいは転がっているかもしれないですよ。